2007.01.11 Thursday
伝説のカーラ |
今、オレは船の甲板に立ち、そして目の前にはカーラが立っている。
そう、紛れもなくオレの副官カーラだ。 しかし、彼女はいつものカーラではなかった。 額にはめられたサークレットからは禍々しいオーラが放たれ、辺りに充満していた。 「クッ!キサマが灰色の魔女カーラだったとは・・・。」 「あははははっ、今頃気付いてももう遅いわ。」 「お前の好きにはさせんぞっ!ここで息の根を止めてやる!」 「やれるもんならやってみなさい、虫けらが!」 かつて300年前、北海のニシンを食い尽くしたといわれる、伝説の魔女カーラ。 このままこの女を放置すれば、海が大変なことになるのはわかっている。 おそらく、北大西洋のサンマは食べ尽くされてしまうだろう。 それだけは絶対に阻止せねば・・・・ しかし、副官と思い信頼していたカーラに寝首をかかれた形のオレは、 いつものカリビアンシャツにサンダル、そして武器すら持っていなかった。 そんなことに躊躇する間もなく、オレは覚悟を決め、カーラに殴りかかった。 「どりゃぁぁぁぁぁっっ!!!」 「あはははははっ!」 オレの攻撃を軽くかわしたカーラは何かブツブツと唱えた。 その瞬間、オレは足が急に鉛のように重くなるのを感じ、ガックリと膝をついた。 足を見ると、くるぶしから先が石になっている。 そしてそれは、徐々にすねへ、すねから膝へと進行していく。 「クソッ!暗黒魔法か!!」 「あははっ、勝負あったわね。あと数分であなたは石になって死ぬわ。」 身動きできなくなったオレは死を覚悟し、天を見上げた。 長い航海の間の楽しかったことや、辛かったこと・・・たくさんの思い出が甦ってきた。 「みんな、すまん・・・オレもうダメだわ・・・バジリコパスタ、もっと食べたかったなぁ・・・。」 オレはバジリコパスタに思いを馳せ、静かに眼を閉じた・・・その時! バシューーーーーンッ!!!! 空気を切り裂き、一本の光の矢が飛んできた。 その矢はオレの足に見事命中し、みるみる石化を治癒していく。 「これは・・・治癒魔法・破魔矢!アイツ・・・か!」 オレが振り返るとそこには、かつての見慣れた顔がいた。 すらりとのびた背、肩より少し長い緋色の髪・・・ 遠い昔・・・クライス大陸で共に戦った俺の古女房・・・。 「何やってんのムーン!さっさとあんなヤツぶちのめしてしまいなさいっ!」 「言われなくてもやるさ、ヒィードリット!アレもって来てくれたかっ?!」 「そんなことだろうと思って、持ってきたわよ、ほいっ!」 そう、そこにはかつての相棒、ヒィードリットが立っていた。 オレはヒィードリットから受け取ったモノを魔女カーラにかざした。 「さあカーラ、キサマもこれで・・・・・・ってコレ停戦協定状じゃん!こんなもん効くかボケぇぇぇぇぇ!」 「えぇ?!違った?これね!はいっ!!」 「おぅ!これだぜ、これで敵をチョキチョキと・・・ってこれ仕立て道具やんっ!!こんなんで倒せるかぁぁぁぁぁッ!」 「あああ、ゴメン!お約束だと思って・・・・テヘッ!これね、それッ!」 「いや、最初からそれくれないとオレ死ぬからっ!おもいっきり死ぬからっっ!」 オレはようやく愛刀・アレクサンダメスの剣を受け取ると、カーラに向かって構えた。 「覚悟!恨みは無いが斬らせてもらうっ!!!」 オレの刀が一閃するとカーラはその場にガックリと崩れ落ちた。 「ふぅ・・・終わったな・・・」 オレは倒れたカーラの傍に駆け寄り、抱き起こした。 そのカーラは「灰色の魔女カーラ」ではなく、いつものオレの副官のカーラに戻っていた。 ぐったりとしたカーラは最後の力を振り絞り、か細い声で言った。 「「船長・・・・あたし・・船長の・・コト・・ほんとは好k・・」 「やかましい!さっさと逝けやぁぁぁぁぁ!!」 オレはカーラが苦しまぬように、涙ながらにトドメを刺した。 かくして世界の海の平和は守られたのであった。。。 |